株式会社トイポ
200万人のユーザー基盤を、次の事業へ。toypoとZENが3ヶ月で描いた新規事業の輪郭

飲食店を中心に、店舗のリピーター集客を支援するアプリ「toypo(トイポ)」。広告に頼らず、導入店舗を通じてユーザーが自然に増えていく仕組みにより、現在のユーザー数は約200万人にのぼる。一方で、これまでの収益は店舗向けのBtoB事業が中心で、そのユーザー基盤を活かしたToC向けの事業はまだ確立されていなかった。
資金調達を機に、改めて新規事業に挑戦することを決めたものの、具体的に何をやるのかは白紙に近い状態だった。そこに伴走したのが、株式会社ZENだ。アンケート調査、ユーザーインタビュー、海外事例のリサーチ、加盟店へのヒアリング、モックアプリの制作までを通じて、両社はわずか3ヶ月で新規事業の輪郭を描いていった。
今回は、株式会社トイポ 取締役CPOの小神寛晴さんと、株式会社ZEN代表の佐伯航平さんに、構想を事業へと落とし込むまでのプロセスを聞いた。
佐伯航平(Kohei Saeki)
サイバーエージェントでエンジニアとして開発経験を積んだ後、メルカリにてプロダクトマーケティングマネージャーとして事業成長に携わる。現在は株式会社ZENを経営し、プロダクトマネジメント、グロース、AI活用、クリエイティブ制作などを横断して、企業の新規事業・サービス成長を支援している。
小神 寛晴(Kansei Kogami)
株式会社トイポ 取締役CPO。九州工業大学在学中にアプリ開発や複数のインターンに取り組み、2019年にトイポを共同創業。CTOとして開発体制を構築した後、現在はCPOとしてtoC・エンタープライズ両軸の新規事業立ち上げやプロダクト戦略、採用・組織設計などを統括。「身近な人に届くプロダクトづくり」を信条に事業を推進している。
——まず、toypoというサービスについて教えてください。
小神さん:toypoは、飲食店などのお店に向けて、リピーター集客を支援するサービスです。僕たちが運営するアプリの中に、各お店のミニアプリを作るようなイメージで、お店ごとのポイントカードやクーポンをアプリ内で公開できます。お店のスタッフさんが「お店のアプリができました」とお客さんに案内することで、リピーター集客につなげていく仕組みです。
特徴的なのは、広告をかけずにユーザーが増えていくこと。導入店舗が増えるほど、お店のスタッフさんを通じて自然とユーザーも増えていきます。現在のユーザー数は約200万人で、毎月数万人規模で増え続けています。

〈キャプション〉株式会社トイポ 取締役CPO 小神寛晴さん
——その課題に対して、どうアプローチしたのでしょうか?
小神さん:ユーザーはいる。でも、そのユーザー基盤をまだ活用しきれていないという課題がありました。toypoのユーザーは、基本的には「お気に入りのお店一店舗で使えるアプリ」という認識で使っています。来店頻度が高いお店であればいいのですが、居酒屋や焼肉店のように、同じお店に行く頻度が高くない業態もあります。
そうなると、アプリのアクティブ率を上げるのが難しくなります。そこで、このユーザー基盤を活用し、店舗側からの収益とは別に、ユーザーから収益を得るToC向けの事業を作れないかと考えていました。
実は1年ほど前にも一度チャレンジしたのですが、社内リソースの都合で一旦クローズしていました。そこから今年、再度資金調達を行い、改めてこの領域に挑戦しようと。ただ、僕自身も別の新規事業を見ていたので、ここをリードしてくれる方が必要でした。
——ZENの佐伯さんと一緒に進めようと思った理由は何だったのでしょう?
小神さん:一番は、まだ輪郭のない構想でも、前に進めてくれそうだと感じたことです。こちらの話をちゃんと汲み取ったうえで、ご自身の意見を持って返してくださる。コミュニケーションにも違和感がなく、ふわっとしたものを形にしていく力がありそうだと感じました。

〈キャプション〉株式会社ZEN 代表 佐伯航平さん
佐伯さん:今回は、本当に「何をやるか」から一緒に考えるフェーズでした。まだ一緒に働いたことがない相手に、その段階から相談するのは勇気がいることだと思います。だからこそ、そこからご一緒できたのは僕自身もうれしかったですね。
——プロジェクトが始まった時点では、どこまで方向性が決まっていたのでしょうか?
小神さん:「toypoのユーザーをもとに売上を作る」「ユーザー課金の事業を作る」というところまでは決まっていました。ただ、具体的に何をやるかは決まっていなかったです。広告なのか、月額課金なのか、ECなのか。アイデアはいくつかありましたが、本当にユーザーにとって価値があるのか、どのくらい売上が作れそうなのかはわからない状態でした。

小神さん:結果としては、「お得な体験」が圧倒的でした。8割近くのユーザーが価値を感じると回答していたので、クーポンやポイント還元など、経済的な価値の方向に進もうと決めやすかったですね。そのうえで、実際に使ってくれそうなユーザーにデプスインタビューを行い、どんなお店で使っているのか、どのくらい外食するのか、どんな特典ならお金を払いたいのかを深掘りしていきました。
佐伯さん:同時に、海外事例もリサーチしました。ヨーロッパでは、月額費を払うと加盟店で大きな特典を受けられるサービスが成長しているんです。仕組み自体は、ユーザーが月額費を払い、店舗がお得なクーポンを出すというシンプルなもの。toypoにはすでにクーポン機能がありますし、飲食店とのネットワークもある。このモデルは相性がいいのではないかと考えました。
小神さん:日本にもクーポンはたくさんありますが、5%オフやドリンク一杯無料のようなものが多い。今の物価高の中で、それだけでは来店動機になりにくい部分もあります。一方で、25%オフのような強い特典が出せれば、ユーザーにとって明確な来店動機になる。店舗側にとっても、新しいお客さんが来てくれるきっかけになります。
——店舗側へのヒアリングも行ったのですか?
小神さん:はい。25%オフという数字をベンチマークにして、店舗事業者さんにもヒアリングしました。もちろん、原価や利益率を考えると簡単ではありません。ただ、アイドルタイムに限定する、コースを限定するなど、条件を絞れば実現の可能性は見えてきました。まだ条件整理は必要ですが、次の検証に進める手応えを得られたのは大きかったですね。
——この3ヶ月で、具体的にどこまで形になったのでしょうか?
小神さん:「月額課金で、加盟店でお得な特典を受けられる」という方向性が決まり、事業の形やユーザー体験のモックまで見えてきました。次は加盟店を獲得できるのか、どの条件で成立するのかを検証していくフェーズです。まずは創業地である福岡の一部エリアから始め、成功すれば他の都市にも展開していく。そういうスケールの絵も描きやすくなりました。

——3ヶ月というスピード感については、どう感じていますか?
小神さん:かなり早かったと思います。実際には4月中旬ごろから6月末までなので、2ヶ月半くらいですよね。アンケートやインタビューも、1〜2週間で設計から実施、集計まで進めていただきました。ユーザーの声を聞き、それを事業に反映していくプロセスを、かなり短いサイクルで回せたと思います。
佐伯さん:AIや開発環境の進化によって、スピードを上げられた部分はもちろんあります。ただ、それ以上に、toypoさん側の反応が速く、論点に対してきちんとディスカッションしてくださったことが大きかったです。新規事業は、進めていく中でどうしても行ったり戻ったりしがちですが、今回は目的に向かってまっすぐ進められた感覚がありました。定例のたびに、一歩ずつ前に進んでいる実感がありましたね。
——なぜ、そこまでスムーズに進められたのでしょう?
佐伯さん:早い段階で、議論の材料になるアウトプットを持っていくようにしていたことは大きいと思います。たとえば、プレミアムの方向性が見えてきたタイミングでLPのモックを作って持っていく。言葉だけで説明するよりも、たたき台がある方が、ユーザー体験を具体的にイメージしやすくなります。
抽象的な議論で止まらず、早い段階で具体を見ながら話せたことが、スムーズに進められた理由のひとつだと思います。

小神さん:本当に、無駄な議論が少なかったと思います。依頼前やキックオフの段階で、どう進めたいのかを話せていましたし、新規事業の進め方に対する感覚も近かった。だから認識が大きくずれなかったのだと思います。
佐伯さん:僕自身も、時間をかけても大きく変わらない論点は、早めにスタンスを取って決めるようにしていました。もちろん重要な論点は検証しますが、すべてを議論し続けると前に進めなくなってしまう。論点を絞り、決めるところは決める。それがスピードにつながったと思います。
——今回のプロジェクトでは、AIの活用も大きかったのでしょうか。
佐伯さん:大きかったと思います。特に、アイデアを早い段階でモックとして形にできたことは大きかったですね。言葉だけで議論していると、人によってイメージがずれてしまうことがあります。でも、実際に画面やLPの形になっているものがあると、「この体験ならどうか」「この見せ方なら伝わるか」と、同じものを見ながら話せるようになるんです。
小神さん:モックがあることで、チーム全員が同じイメージを持てるようになりました。「こういうプロダクトで、こういう体験を提供する」というものが目に見えると、「これいいじゃん」「作ろうよ」と熱量が上がるんです。抽象的だったものが、一気に現実味を帯びた感覚がありました。
——プロジェクトの進め方としては、どのような体制だったのでしょうか。
佐伯さん:toypoさん側からも複数名入っていただき、ZEN側からも担当が加わる形で進めていました。インタビューはZEN側、数値の確認や加盟店との連携はtoypoさん側というように、役割分担がうまくはまっていたと思います。

〈キャプション〉定例会議の様子
小神さん:チームっぽかったですよね。「お願いします」と投げて提案が返ってくるコンサルのような形ではなく、一緒に作っていく感覚がありました。こちらが全部決めるわけでも、ZENさんに全部任せるわけでもない。そのバランスが良かったです。
佐伯さん:僕自身、最初にプロダクトをちゃんと好きになることを大事にしています。今回も、toypoが導入されている東京・亀有のお店に足を運んで、実際にアプリを使って買い物をしてみました。プロダクトのいいところを自分で感じて、いいものを作りたいと思える状態で入る。そこがないと、チームっぽく作っていくのは難しいと思うんです。
小神さん:すごく大事なことだと思います。お互いにやっていて面白いかどうか、作る喜びがあるかどうか。そういうものがあるからこそ、クリエイティブな話もしやすくなるのだと思います。
——今回、ZENと一緒に取り組んでみて、特に良かったと感じることは何ですか?
小神さん:本当にふわっとしているところから、事業の目的、プロダクトの形、提供するユーザー体験、さらに事業としてのポテンシャルまで見えたことはすごく良かったです。正直、最初はそこまでできるかわからなかったんです。でも、ユーザーの声をもとに、ある程度自信を持って「こういうものがいいんじゃないか」と思えるものを形にできた。そこは想像以上でしたね。
僕自身、別の新規事業にも取り組んでいたので、ToC側にフルコミットするのは難しい状況でした。でも、佐伯さんにリードしていただきながら、自分たちは意思決定やフィードバックに集中できた。その結果、想像以上のアウトプットが出せたと思っています。

佐伯さん:新規事業は、外部の人間だけで勝手に作れるものではありません。こちらが仮説やアウトプットを出し、それに対してtoypoさんがスタンスを取って決めてくださった。その関係性があったからこそ、短期間でここまで形にできたのだと思います。
——今後の展望について教えてください。
小神さん:今回の取り組みを通じて、「toypo premium」の形はかなり見えてきました。200万人のユーザー基盤を活用できれば、会社としての価値や売上規模は大きく変わると思っています。まずはBtoB側でしっかり売上を作りながら、タイミングを見て福岡から検証を進めていきたいです。一都市で成功すれば、他の都市にも展開できる。そこまで見えているので、事業として形にしていくことは必ずやりたいです。
佐伯さん:そのタイミングでは、ぜひまたご一緒したいですね。今回のように、「何をやるか」がまだ決まりきっていない状態から、事業として形にしていくフェーズは、ZENとしても得意な領域です。ゴールをどこに置くのか、どんなユーザーに何を届けるのか。そこから一緒に整理していくことで、事業の輪郭は少しずつ見えてくるのだと思います。
取材・文・写真:藤井由香里
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