株式会社タイミー
「読まれない求人」をどう変えたか。タイミーとZENが挑んだ“つたわるマンガ”の可能性

「スキマバイトの会社」というイメージが強いタイミーが、正社員就職支援サービス「キャリアプラス」に力を入れ始めている。しかし、そこには大きな壁があった。現場でアクティブに働くワーカーにとって、仕事の合間や移動中にスマホで確認する従来のテキスト求人は、内容を理解するまでの心理的・時間的ハードルが高い。動画も検討したが、「見る」という意思決定のコストが新たな障壁になる。そこでたどり着いた答えが、マンガだった。
その取り組みを支えたのが、ZENの「つたわるマンガ」事業だ。単なるAI生成ではなく、課題整理からペルソナ設計、ネーム制作、プロのデザイナーによる仕上げまで伴走することで、“伝わる”コミュニケーションを設計している。
今回は、タイミーの丸山紗代さん、佐藤康司さんと、ZEN代表の佐伯航平さんに話を聞いた。LPマンガで読了率55%、求人マンガでコンバージョン率約4倍を記録した取り組みの裏側と、「つたわるマンガ」が採用コミュニケーションにもたらした変化について語ってもらった。
佐伯航平(Kohei Saeki)
サイバーエージェントでエンジニアとして開発経験を積んだ後、メルカリにてプロダクトマーケティングマネージャーとして事業成長に携わる。現在は株式会社ZENを経営し、プロダクトマネジメント、グロース、AI活用、クリエイティブ制作などを横断して、企業の新規事業・サービス成長を支援している。
丸山紗代(Sayo Maruyama)
大学卒業後、地方銀行を経て2012年にリクルート入社し、営業プレイヤーおよびマネジメントを経験。2021年にタイミーへ。エンタープライズ営業を経て企画職へと転じ、人員拡大期の営業生産性向上を主導。現在は新規事業の立ち上げに参画し、事業責任者直下で、アプリのユーザー体験(UI/UX)の改善を軸にプロジェクトを推進。
佐藤 康司(Koji Sato)
化粧品業界、大手通信会社を経て2022年にタイミーに入社。スポットワーク事業の成長に携わった後、新規事業「タイミーキャリアプラス」のマーケティング責任者に。集客施策やユーザーコミュニケーションの設計を担う。
——まず、今回の取り組みの背景について教えてください。
丸山さん:タイミーって、やっぱり「スキマバイトの会社」というイメージが強いじゃないですか。でも今は、正社員就職の領域にも少しずつ事業を広げています。「キャリアプラス」というサービスを通じて、アルバイトから正社員へのキャリアアップを支援しているんです。
佐藤さん:私はそのキャリアプラスに1年ほど前から関わっていて、スポットワークのワーカーをいかにキャリアプラスへ繋げるか、どんなユーザー体験を作るか、ということをずっと考えてきました。
〈キャプション〉(左)佐藤 康司さん(右)丸山紗代さん
丸山さん:この事業を進める中で、すごく大きな課題があったんです。タイミーのユーザー層は、現場でのお仕事を終えた後や、スキマ時間にスマートフォンでサクッと仕事を探す方が大半です。そのため、文字量が多い従来の求人情報だと、「パッと見て自分に合う仕事かどうかが直感的に伝わりづらい」という仮説がありました。
——その課題に対して、どうアプローチしたのでしょうか?
佐藤さん:最初は動画を考えていました。YouTubeなどに日常的に触れている人も多いので、動画にして届けようと。LPに動画を埋め込む案も出ていましたね。
丸山さん:でもそこで、「実際どうやって作るのか?」という話になった時に、意外とハードルが高くて。
佐藤さん:あと、動画って「見る」という意思決定が必要なんですよね。サムネイルをクリックして、1分、2分と時間を使う。その判断コスト自体が、認知を上げる上で障壁になるんじゃないかという話になりました。
丸山さん:そうそう。ユーザーの思考負荷を減らすことが、ずっとキーワードとしてあったので。LPのファーストビューにマンガがあれば、特別な意思決定をしなくても、そのまま読み進めてもらえるんじゃないかと。それがすごくしっくりきたんです。
〈キャプション〉佐伯航平
佐伯:実は昨年からタイミーの新規事業に関わっていて、普段はプロダクトマネジメントをご一緒しています。その中で、ユーザーへの伝え方について話す機会も多く、マンガという手法も選択肢の一つとしてご提案したのがきっかけでした。
丸山さん:もともと一緒に事業を進めていたので、「この人たちだったら任せられる」という感覚がありました。外部の制作会社というより、一緒に事業を作る仲間という感覚に近かったですね。佐伯さんが提案してくれた時も、サービスとの親和性は高そうだと感じましたし、タイミーとしてもこれまでにないフォーマットだったので純粋に面白そうだなと。そうした期待もあって、「まずはやってみよう」という話になりました。
——最初のマンガはどんなものだったんですか?
佐伯:最初に作ったのは、キャリアプラスのサービス自体を説明するLPのマンガですね。「特別選考パス」という制度があって、それを伝えるものでした。
丸山さん:作る前に、まずすごく丁寧なすり合わせをしたんです。誰をペルソナにするのか、その人たちはどんな心理的ハードルを抱えているのか。「正社員になりたいけど、一歩踏み出せない」という人を主人公にして、そのユーザーがマンガを読み終えた後にどんな気持ちになっていてほしいか、何を頭の中に残していてほしいかを整理しました。
佐伯:そこがいちばん大事なところだと思っています。絵柄がかっこいいとか、キャラクターがかわいいとかだけではなくて、その人に何を届けたいのか。読み終えた後の状態を先に決めるんです。その上でネームを作り、セリフを一緒にすり合わせていきました。
佐藤さん:マンガの中には、ユーザーが一番ハードルを感じる「応募ボタンを押す瞬間」も入れよう、という話をしたんです。「よし、応募するぞ!」ではなくて、「ちょっと話だけ聞いてみようかな」くらいの気持ちで踏み出せるように。その場面を描くことで、自分ごととして捉えてもらいやすくなるんですよね。
丸山さん:そこはマンガならではの強みだと思います。文字や図解だけだと、どうしても説明的で少し硬い印象になりがちですが、マンガはストーリーの中で感情を動かせる。主人公に自分を重ねながら読めるので、「今の自分でもできるかもしれない」と感じてもらいやすいんです。
——LPマンガの反応はいかがでしたか?
佐藤さん:ファーストビューに設置したマンガを、最後まで読み進めたユーザーが55%だったんです。
丸山さん:かなり高い数値ですよね。LPって、開いてすぐ閉じられてしまうことも多い。それが半数以上の人に最後まで読んでもらえたというのは、とてもポジティブな結果でした。社内でマーケティング本部の部長に共有した時も、すごく驚いていましたね。
佐伯:その結果を受けて、「次は求人マンガもやってみよう」という話になりました。
丸山さん:正社員求人を掲載している3社分のマンガを制作することになったんです。
——LPマンガで手応えを得たことで、求人そのものをマンガ化する取り組みにも発展したのですね。求人マンガはどのような内容だったのでしょうか?
丸山さん:タイミーで扱う求人には、未経験者向けのものが多いんです。例えば「設備管理技術者」や「施工管理」など、職種名だけでは仕事内容がイメージしづらいものも少なくありません。「難しそう」「自分には無理かもしれない」と感じて、そこで離脱してしまうケースもあるんです。

佐藤さん:そうした仕事の魅力や働き方をどう伝えるかは、テキストだけではなかなか難しい。長い説明文を並べても、スクロールの手間やテキスト量に対して、仕事のリアルな魅力が十分に伝わりきらないケースもありました。だからこそマンガを使って、「どんな仕事なのか」「未経験でも挑戦できるのか」「どのように成長できるのか」といった情報を、直感的に伝えようと考えました。
佐伯:制作する上で意識したのは、ユーザーにとっての“難しさ”を徹底的に取り除くことでした。「設備管理技術者」という言葉も、その職種の経験がない方にとっては、具体的にどんなお仕事なのかピンと来づらいものです。本当に知りたいのは、「自分にもできる仕事なのか」「どんな働き方なのか」ということです。だからこそ、職種名の説明から入るのではなく、ユーザーが前に進むために必要な情報は何か、という視点から構成を考えていきました。
丸山さん:マンガを作る過程って、実は事業そのものを見つめ直す時間にもなるんですよ。このサービスを使うのはどんな人なのか、何に不安を感じているのか、そして最終的にどんな状態になっていてほしいのか。それをキャラクターやストーリーに落とし込んでいくので、タイトルを考える段階から論点の整理が始まるんです。

〈キャプション〉マンガ制作の初期ラフ。ペルソナや訴求内容を整理しながら、ネームやセリフを細かく調整していく。
佐伯:そうですね。いきなりマンガを描き始めるわけではなくて、まずは「誰に何を伝えるのか」を考えるところからスタートします。読み終えた時にどんな気持ちになっていてほしいのか、何を持ち帰ってほしいのか。そこを明確にしてから、ネームやセリフを作っていくんです。
丸山さん:だから感覚としては、単なるマンガ制作というより、事業課題を言語化していくプロセスに近かったですね。
——制作のプロセスで印象に残っていることはありますか?
丸山さん:ネームを作った後、4〜5回は修正をやり取りしたんですよ。途中で、登場キャラクターを女性で作っていたのを男性に変えたいという話が出て。
佐伯:従来の手描きのマンガだったら、全コマ描き直しになるので、かなり難しい変更だったと思います。でも弊社では自社開発のマンガ生成ツールを活用しているので、そうした修正にも柔軟に対応できる。AIならではのスピード感ですね。

〈キャプション〉完成した求人マンガの一部。修正を重ねながら、職種の魅力やキャリアパス、働くイメージが直感的に伝わる構成へと磨き上げた。
丸山さん:修正が早いからこそ、「スケジュール的に厳しいからこのまま進めよう」ではなくて、納得いくまで議論できるんです。結果として、「ちゃんとすり合わせができた」という感覚を持って公開できました。
佐伯:スピード感という意味では、最初の試作をお見せした時も驚かれましたよね。
丸山さん:本当に早かったです(笑)。思わず「何人で作っているんですか?」と聞いてしまったくらい。
佐伯:絵を作る工程は自社ツールで大幅に効率化できるので、その分、「何を伝えるか」「誰に届けるか」といった本質的な議論に時間を使うことができます。一方で、AIだけですべてが完結するわけではありません。最終的な仕上げはプロのデザイナーがPhotoshopで手作業で行っています。表情の細かなニュアンスや背景の違和感など、人の目でなければ気づけない部分を調整しながら、品質を担保しています。
——求人マンガを出した後、数値的な効果はありましたか?
佐藤さん:ABテストを行い、コンテンツを見た人と見ていない人でコンバージョン率を比較したところ、見た人の方が約2倍高かったんです。ただ、統計的な有意差が出るほどの母数ではなかったので、当初はデータ自体の解釈を慎重に進める声もありました。
丸山さん:でも、その数字をどう解釈するかを議論した時に、見方が変わったんです。
佐藤さん:「興味がある人がマンガを見て応募しただけでは?」という見方もできます。でも逆に言えば、マンガがなかったら、その人たちは途中で離脱していたかもしれない。つまり、もともと興味はあったけれど、文字だけの求人票では実際に働くイメージが湧きづらかった方々に、マンガを通じて仕事内容や職場の雰囲気を具体的に伝えられたことで、応募という次のアクションにつながったのだと思います。

丸山さん:その解釈をしてから、すごく前向きに捉えられるようになりました。マンガは新しい興味を生み出すというより、興味を持ってくれた人を取りこぼさずに次のアクションへつなげるための手段なんだと。
佐藤さん:実際、今回の取り組みを通じて、マンガにはそうした役割があることが見えてきました。数字そのものだけでなく、「どういう場面で機能するのか」という学びを得られたことも大きかったですね。
——今後の展開について聞かせてください。
佐藤さん:実は今日の取材の前にも、「マンガを今後どう広げていくか」という話をしていたんです。求人だけではなくて、例えば面談前に離脱しそうなユーザーに向けて、「面談ってそんなに大げさなものじゃないですよ」ということを伝えるマンガを、別の取り組みで試し始めています。
丸山さん:すでにキャリアプラス内の別プロジェクトでも展開が始まっているんです。うまくいった施策をすぐ次に活かせる。そのスピード感は、この3人の強みの一つだと思っています。
佐藤さん:マンガはデジタル広告にも使えますし、テレビCMやチラシなどにも展開できる可能性があります。一つのフォーマットを軸にしながら、活用できる媒体が広がっていくのは面白いですよね。

佐伯:ZENとしては、「つたわるマンガ」というサービス名の通り、伝えたいことがあるのに伝わっていない場面に対して、マンガという手段で貢献していきたい。今回のタイミーさんとの取り組みは、採用コミュニケーションにおいてマンガが有効な選択肢になり得ることを示せた事例だったと思っています。
佐藤さん:今回の取り組みを通じて、マンガには「興味はあるけれど一歩踏み出せない人」に情報を届ける力があると感じました。PDCAを回しながら改善を重ねていく流れもできているので、今後もさまざまな場面で活用していきたいですね。
取材・文・写真:藤井由香里
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